町田市立国際版画美術館の展覧会「版画×写真―1839-1900」(会期:2022年10月8日~12月11日)を観てきました。
写真の発明によってとりわけ大きな影響を受けたのは、何世紀にもわたってイメージを写し伝えるという同じ役割を担ってきた版画。
この展覧会は、世界初の写真術であるダゲレオタイプが公表された1839年を起点に、写真の技術が向上し印刷技術として実用化されていく19世紀末までの、版画と写真の支えあい競い合った関係を探るもので、
版画や写真、カメラや撮影機材などの関連資料180点を紹介するとのこと。
入場料:一般900円、大・高生450円、中学生以下無料
では、どんな様子だったか。特に印象に残ることなどをチラリ。
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カメラや写真関連の結構な量のコレクションを所蔵する「横浜市民ギャラリーあざみ野」の資料も、今回いくつも展示されてましたョ。
展覧会の序盤。写真のはじまりから。
作者不明「カメラ・オブスクラ」
c.1790
横浜市民ギャラリーあざみ野(所蔵)
(確かに。観たことある気がする(^^;)
会場のキャプションボードによると・・・
写真用カメラの原型となった光学装置。
暗箱内部の鏡に反射した映像が上方のガラスに表示される仕組み。風景や建造物を正しい遠近法で描く道具として17世紀頃から用いられた。・・・とのこと。
絵↑のように、使われていたのですネ
シャルル・シュヴァリエ「カメラ・ルシーダ」
制作年不詳
横浜市民ギャラリーあざみ野
1806年にイギリスのウォラストンが特許取得した観察器具。先端のプリズムを通して手元の紙を見下ろすと、正面の風景が屈折して映る。その像をトレースして描画する。カメラ・オブスクラよりもコンパクトな補助道具として19世紀半ばまで画家の下絵制作等に活用された。・・・とのこと。
・・・て!昔の絵画って全部直接肉眼で見たものを紙に描いてたと思ってたのですが・・・(;'∀')
そんなカメラ・ルシーダを用いて描いたものをもとにした作品。
バジル・ホール「1827年、1828年に北アメリカでカメラ・ルシーダを用いて描いたスケッチに基づく40点のエッチング集」
1830刊(初版1829)
書籍
東京工芸大学中野図書館
そして世界初の写真術、ダゲレオタイプの制作方法に関する説明。
ダゲレオタイプは、カメラ・オブスクラに映る映像を金属板に定着させる写真術。
ダゲレオタイプは1839年1月7日のフランスの科学院の例会で発表。やがてフランス政府が特許権を買い上げたとことで、普及したとのこと。
ダゲレオタイプの命名の由来は、開発に関わったルイ・ジャック・マンデ・ダゲールの名。
ダゲレオタイプの制作には、これだけの道具と工程が必要とのこと・・・ヽ(゚Д゚;)ノ!!!
(会場には道具の展示アリ。横浜市民ギャラリーあざみ野の資料。)
めっちゃ技術や時間、体力、根気が要りそうだと想像。
現代のカメラって、ほっっっんとに!!進化したンですネー・・・
フィルムと比べてもそうですもん(私の子ども時代の半分以上はフィルムカメラだった…)。
撮ってその場で確認・編集ができるデジカメ・・・そしてスマホ!
S・L・カールトン「ダービッドマンション、ポーランド」
c.1854
ダゲレオタイプ
横浜市民ギャラリーあざみ野
・・・現代の現像された写真とは全く違う感じですね。むしろ版画とか絵画に近い存在感。
なお、展覧会の後半には、ダゲレオタイプの肖像写真がずらり。
コンパクトみたいな収納ケースに入れられている肖像写真です。
ダゲレオタイプは表面が弱く、さわってしまうと像は消え、空気の影響も受けやすい。焼き増しもできない。なので、完成するとすぐガラスで密閉する必要があり、額縁や布張りのケースに入れて大切に保管されていました。
持ち主たちは、ケースのふたをそっと開けて、どんな気持ちでその肖像写真を見たのだろう・・・と、キャプションボードには説明が。
・・・なんか、そういう映画のシーンもあった気がしますよネ。これからそういう場面を目にした際は、見方がちょいと変わるかも?!
テオドール・モリセ「ダゲレオタイプ狂」
1839.12.8.『カリカチュール』紙掲載
リトグラフ
獨協大学図書館
ダゲレオタイプ公開4か月後に発表された諷刺画。
なかなか皮肉めいています・・・是非現地で観てみてネ。
この後、
フォトジェニック・ドローイング、塩化銀紙、カロタイプ、コロディオン湿板方式、鶏卵紙・・・・・・などなど、様々な写真技術の説明とその作品がずらり。
いろんな材料や工程が出てくるので、頭の中でイメージしながら読んでいると・・・おお、なかなか運動になる(;'∀')
それは版画の展示についても同じ。
版画も様々な技術がありますよネ。エングレーヴィング、メゾチント、エッチング、アクアチント、リトグラフ・・・・・・などなど。
・・・展覧会で版画の作品を見た際に「メゾチント」や「アクアチント」などとキャプションボードに記されてあっても、(??)みたいな感じでしたから(メゾチントについてはこないだの長谷川潔氏の展覧会でどんな感じの版画なのか少しつかめた気がするけど)、
脳内の情報整理にもよいかもしれません。
1850年ごろの紙写真の技術に関する発明の一つ「鶏卵紙」の作品。
なんかオシャレです
アドルフ・ブラウン「植物のある静物」
1860
鶏卵紙
東京都写真美術館
そして展覧会第二章のタイトルは「実用と芸術をめぐる争い」。
版画は画像を複数枚作る技術(絵を印刷する技術)として、何世紀にもわたり幅広い役割を担ってきた。その一つに「複製版画」があり、偉大な画家の作品に基づく複製版画は、版画家が原画を解釈し、版画表現に置き換えた新たな作品としても評価されていました。
写真に正確さと迅速さに優位性がある中、版画は実用的な役割ではなく、美術表現として生き残る道を探っていく。
一方、写真は初期は技術が改良が進むうち、芸術としての評価を求める者が現れてきた。・・・といった紹介文からはじまります。
・・・有名な版画というと・・・日本でいうと浮世絵、ですが、
ヨーロッパでも有名な絵を版画にする、という文化があったのですね。
会場には、レンブラントの「夜景」が原画の版画が展示されてました。
かっこいいですね。
ピーター・ヘンリー・エマーソン「『湖沼地帯の暮らしと風景』より」の「沼地からの帰路」
1886
プラチナプリント
東京国立近代美術館
レタッチ(補整)しない1回のショットで撮影された、芸術としての「ストレート・フォト」を推進した初期の例。
エマーソン氏は、バルビゾン派などの写実的傾向をもつフランス絵画から影響を受けて、肉眼に映る後継をそのまま写真に表そうとした。・・・とのこと。
・・・そうなの。画家・ミレー(バルビゾン派)を思い出したの。
そして展覧会の中盤ぐらいに、
ポスターになっている作品
「写真術を芸術の高みにまでひきあげるナダール」(オノレ・ドーミエ 1862.5.25 『ブールヴァ―ル』紙掲載 リトグラフ 国立西洋美術館)。
写真家・風刺画家・ジャーナリストなど様々な肩書を持つナダールは、気球に乗って、世界初の空中写真を撮ったとのこと。
気球に記されてある文字は、ポスターver.とは異なるのね(^^;展覧会終盤には、クリミア戦争の戦地や労働者政権パリ・コミューン樹立前後のパリ市内様子などをとらえた写真・版画。
クリミア戦争の頃は、現代ほど素早く写真にできる技術はまだ・・・だったようで、
メディアで戦地の様子を伝える際に、版画は大変活躍したようです。
パリ市庁舎のコミューン収束後に撮影された写真や1871年5月24日炎上する様子のリトグラフが展示されてます。
・・・私は当時のパリ市庁舎を実際に見たことはもちろんないけれど・・・いずれもリアルな風景のように見えました。
現代の感覚(?)だと、よりありのままをうつすのは写真、という感じがしますが、きっとそうではない。
そうですよね・・・油絵などの風景画も、芸術性が高いけれど、実はリアルでもありますものね。
シャルル・マルヴィル「パリ市庁舎(コミューン後)」
1871
鶏卵紙
東京都写真美術館
なお、私が撮影した写真(↑)だと、画質が粗いですが、
実物は、とてもきめ細かい・・・当時の技術でこれほどまでの写真を撮影することができたのですネ。
レオン・ジャン=バティスト・サバティエ「『パリとその廃墟』より」の「パリ市庁舎:1871年5月24日炎上」
1873
リトグラフ
大佛次郎記念館
版画と写真のどっちにより関心があるか別として、現代の多く人々にとって写真は身近なもの。
とはいっても・・・今でも写真は便利なものであるには違いないけど、動画に置き換えられている部分も少なからずありますよネ。近年動画の手軽さがアップしているから。
ミュージアムショップにて販売されてマス(1部200円)。
結局、今回も図録買っちゃった・・・べんきょうしよう
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